2009年8月8日土曜日

クロネコヤマトの宅急手押し車



朝、新聞を取りに郵便受けのところまで行ったついでに前の道で深呼吸をしていたら、向こうの方から箪笥半分くらいの大きさで全体を緑色のビニールシートで覆ったカートというか手押し車のようなものがやってきた。

カートを押しているのは年配の女性。ときどき地図だか書類だかを見ながら近づいてきたので、良く見るとクロネコヤマトの宅急便用のカートだった。

多分5~6年くらい前までだったと思うが、ヤマト運輸は宅急便の配達や荷物の受け取りに、もっぱら背高の特注バンタイプの車両を使っていた。

住宅地のせまい道路を、背の高いバン車両がディーゼルエンジン特有のガーガーという騒音をたて、黒い排ガスをまき散らしながら走り回る様子ははっきり言って不快だったし、少しでもスピードが出ていると身の危険も感じた。

その後、環境問題への社会的関心の高まりへの配慮なのか、ディーゼ車に対する石原都知事のバッシングのせいなのか、ヤマト運輸はバンの一部を天然ガスエンジン車に切り替えたようだが、住宅地の狭い道を背高のバンが走り回るという不快感や不安感は相変わらず残った。

そうこうしているうちに、周囲の住宅地を走り回る専用バンを見かけることがめっきりと減り、それに代わって、電動自転車の後ろに大きな緑色のカートを連結したリヤカー付きの自転車で貨物を配達する従業員の姿をしばしば見るようになった。

去年の夏のかなり暑い日だったと記憶しているが、緑色の重そうなカートを連結した自転車を、汗をかきながら黙々とこぐ担当者の姿に思わず『へーっ、リヤカー使ってるんだ。暑いのに大変だ。ご苦労さま』と声を掛けてしまったことがある。

そしてついに今年、ヤマト運輸は貨物の配送に手押し車まで使い始めたことを知り、『うーん、そこまでやるか』とさらに驚いた。

話を聞いてみると、どうやらヤマト運輸は、各営業所の担当エリアのうち営業所に近い一部の区域に限って、リヤカーや手押し車による配送を行っているらしい。

さて、ヤマト運輸がリヤカーや手押し車まで使い始めた背景には、背高のバンが走り回ることに各地の住民からたくさんのクレームが寄せられたとか、低炭素社会実現に対する企業としての取り組みの一環とか、化石系燃料の価格高騰への対応などの事情があったのだろう。

ただ、実際にやってみたら、実はヤマト運輸が予想もしていなかったような反応や反響があったのではないかと想像する。

すなわち、住宅街の道をリヤカー付きの自転車をこぎながら、或いは手押し車を押しながら黙々と仕事をする従業員の姿を間近に見た住民の心の中に、ある種の好感やねぎらいの気持ちを引き起こした可能性である。

もしそうだとすれば、企業イメージ向上への効果という点でこれに勝るものはないだろう。少なくとも、どこかに一抹の胡散臭さやポーズを感じずにはいられない、大企業が声高に叫ぶ地球環境問題への対応などと比べたら、はるかに説得力というか訴求力に富んでいる。

肉体を駆使して、額に汗しながら、懸命に働く肉体労働の美しさというのか、説得力というのか、シンプルだが明確で強烈な訴求力というものを再認識させられるとともに、仕事としての肉体労働というものに対する評価の機運が上がっていくのではないかとの予感がした。


0 件のコメント:

コメントを投稿